2014年フランス旅 後記 vol.15 |
キッチンではローランさんが出る前にと夕食の準備をしていてくれていた。
今日これから向かうローランさんの妹オーレリー・ピナールさんが勤める古城ホテル「シャトー・ド・リューズ」は 、日曜日のレストラン営業がないからと、最後の最後まで温かいおもてなしに感謝の気持ちでいっぱいであった。
19時を過ぎてダイニングルームのテーブルに私が向かうと、ユキコちゃんから
「最後の食事だから私の隣に座って!」
タクミくんからも
「最後だから僕の隣に座って!」
と私を奪い合う要求に、2人を左右に私が誕生日席に座って2人を納得させながら、温かいピザを皆んなで取り合う。
ギィ・ピナール家が造るビオディナミ・ビールの「ラ・グール」は今旅でも毎日のように頂いたが、ビールのボトリングや箱詰めの仕事にも携われたことから、旨さも一入となった。
コニャック入りの新発売となったビールを飲みながら、このビールを日本で輸入して貰いDORASで提供してみたい想いも増していた。
20時半、遂に家を出る時がくるとローランさんが車でシャトー・ド・リューズまで送ってくれるとのことで荷物を車に積み込んでお別れとなる。
ユキコちゃんからは、
「来年はもっと長く来てね!」
「もっと沢山居れるように仕事沢山頑張るね」と返しながら愛くるしい言葉に頭を撫でて早い再会を誓う。
ローランさんの車が夜道を出て見えなくなるまで皆んな表で手を振ってくれていた。
6日間あっという間であったが、ローラン・ピナール家での数々のファミリー愛が車の中で幾つも浮かんできて、そんな想いを運転しているローランさんが受け止めてくれていた。
ゆっくりとこの6日間を振り返っていると、あっという間にシャトー・ド・リューズに着いた。
昨年の旅でローランさんと別れ、古城ホテル「シャトー・ド・ブルイユ」でコニャック最後の夜を過ごしているとローランさんからまさかの着信があり、束の間の再会となったのがシャトー・ド・リューズであった。
オーレリーさんからバーのカウンターに入ってカクテルを創るという貴重な経験をさせて頂き、大和魂の「サイドカー」を披露したのであったが、車の中でローランさんから「今年もカクテルを是非創って欲しい」と嬉しい言葉を頂いた。
コニャックの中心から3km弱、シャラント渓谷を見下ろす高台に位置するシャトー・ド・リューズ。
古くはシャラント川の河口一帯に大西洋の海水が入り込み、上質な塩の産地として商人が活躍し豪商が生まれたコニャック地方では、その後シャラント川より大西洋貿易に乗り出し、オランダの商船がコニャックの港に出入りし大量のワインを買い付けた時代から、やがてワインからコニャックが商いの主力となった富があった。
シャトー・ド・リューズもかつての豪商が19世紀に建てた気品あるホテルであり、昨年の経験から次にコニャックに来る際には必ず泊まりたいと思っていたのであった。
ローランさんと荷物を持ってフロントに行くと、今日は公休だったオーレリーさんがわざわざ来てくれていて明るい笑顔で迎えてくれた。
料理上手で料理教室で教えたり、人を楽しませることが上手くチャーミングで明るい性格のオーレリーさんがにっこりと笑っていた。
チェックインを済ませ、ローランさんとオーレリーさんはバーで待っているとのことで荷物を部屋に先ずは運ぶ。
1人で使うには豪華な部屋を用意してくれていた。
重厚な調度品に囲まれたサロンがあるバーに降りると早速カクテルを創ることになった。
ギィ・ピナール家にプレゼントしたオリジナルカクテルの「ファンボア・ムース」を今年は創ろうと決めていたが、副材料となるリキュールがないとのことで、アレンジして創ろうとバックバーに並ぶ中からイメージを創っていく。
コニャックをベースにサンジェルマン・リキュール、パスティス・リキュールをアクセントに、
カカオと生クリームを調合した。
フランスで主流となる2ピースのシェーカーを振り、
フロントで夜勤している若い女性スタッフにもと4杯分をグラスに注いだ。
カクテルを持ってテラスへ移動する。
ローランさんが持参したシガーをプレゼントしてくれた。
真っ暗なシャラント渓谷に囲まれながら、エレガントな白い煙が夜空に吸い込まれていく。
カクテルを飲み干すとオーレリーさんがサンジェルマン・リキュールを使った「モヒート」を創ってくれた。
またテラスに戻り、サンジェルマン・モヒートとシガーでローランさんと最後の時間を愉しんだ。
22時半を回り、しっかりと握り合った握手の余韻が残る中、ローランさんが帰るのを見えなくなるまで見送った。
オーレリーさんは「まだ付き合うわ」とカウンターに入り、コニャックだけでなくチェリー・リキュールを足した「コニャック・シュウェップス」を創ってくれてテラスへまた移動した。
英語がとても流暢なオーレリーさんはイギリスに住んでいた時期があったようで、今までの経験を話してくれていた。
私のイギリスの旅話にも興味を持ってくれたオーレリーさんと盛り上がっていく。
また、昨年の洗礼式で会ったあどけなかった愛娘ラシェルちゃん。
4歳になり、びっくりするほど大人っぽくなっていていた。
グラスが空き、「もう少し時間いいわ」いうオーレリーさんに、私からもう1杯とコニャックをベースに「オリンピック」を変形させたカクテルをアドリブで創り、またテラス戻った。
尽きない話にオーレリーさんがホテルで提供している「ラ・グール」を持ってきてくた。
気づけば23時半を回り、明日は朝から勤務となるオーレリーさんを見送り、「朝また会おう」と見送った。
今旅ではフランスに着いてすぐフシニャックに向かい、ローランさん家で6日間皆んなと一緒であったため、初めて1人となって静まった時間が静かなシャラント渓谷と同化するようにマッチしていた。
明日はパリ入りとなるが、残された時間を自らの足で貪欲に攻めていこうと思いながら静かな眠りに就いていたのだった。