2013年ポルトガル・フランス旅 後記 vol.33(完) |
地下鉄の駅構内だけでなく電車の中でもパフォーマーがいてコインを置くと僕に向けてサックスを吹いてくれていました。
今旅ではリスボンやパリの大都市の歌劇場でもオペラ公演に当たらず残念でしたが、旅の最後の夜にアジアから世界で活躍しているオペラ歌手“Sumi Jo”のリサイクル公演がシャトレ劇場でありました。
韓国出身のスミ・ジョーはオペラ歌手として偉大なるカラヤンの目に留まり、「彼女の声は神からの贈り物」と賞され、その後世界各国の主要歌劇場において活躍中のアジアを代表するソプラノ歌手です。
旅前から楽しみにスミ・ジョーの歌うCDを色々と聴き込んできましたが、運命的と思える偶然が巡ってきました。
まず今回公演のあるシャトレ劇場は、3年前の旅でベッリーニのオペラ“ノルマ”のチケットを取ってあった因縁があったのです。
旅中で体調を崩し肺炎をこじらせ、ベルギーのホテルで寝たきりから最終地点のパリへようやく辿り着くものの赤い救急車に運ばれ、病院で点滴や注射、強い薬で熱は一気に下がりホテルに帰れましたが、次の日帰国する為にベッドで寝て静養となってしまいました。
シャトレ劇場で夜8時からのノルマに行きたい気持ちで揺れ動いていましたが、咳が止まらない苦しさから回りの観客に迷惑がかかってしまうと諦め、諦めがつくようチケットをビリビリに破いてゴミ箱に捨てて寝たのでした。
あの時のシャトレ劇場でのノルマを観れなかった悔しさと苦しさから、あれから3年ノルマを聴くことが出来ませんでした。
今回の旅が近付きスミ・ジョーをもっと知りたくCDを買いに行くと…
そこで出逢ったのは発売されたばかりのノルマに出逢いました。
現代最高の“ディーヴァ”チェチーリア・バルトリが表題のノルマ役を歌った話題盤で、アントニーニの指揮は荒々しくドラマティックで興奮するゾクゾク感♪
新しい校訂譜と古楽器を使った演奏は今まで聴いたことのないノルマの世界へ誘ってくれ、しかもアダルジーザ役はスミ・ジョーと!
「今聴かないでいつ聴くの?」
と問いかけられてるようでした。
あれ以来気持ちが重くなり聴けなかったノルマ…
スミ・ジョーの表現豊かで密度の高い美声に引き込まれるよう、ノルマに没入していった毎日となりました。
オペラに興味を持ち始めた頃、“清教徒”からベッリーニに夢中になり、それからオペラに填まるきっかけとなりました。
ノルマも含め高度な歌唱装飾を伴う声楽歌唱の美しきベルカント・オペラから自分のオペラ道が始まり、その後色々な作曲家のオペラを聴き、ロッシーニ等オペラ・セリアの虜になる中で、ベッリーニは自分の原点であります。
話が反れましたがアダルジーザ役のスミ・ジョーのノルマを毎日聴き込めた事で、あの日へのリベンジとしての気持ちもようやく一体化となれたのでした。
パリ1区、セーヌ川右岸に1862年設立の歴史ある市立劇場に着きました。
2500席しかない小さな劇場ですが席はステージ前方から3列目と、後ろを見渡すと弧を描く劇場の美しさに見とれてしまいました。
20時となり妖艶さもあるスミ・ジョーが白いドレスを着て遂に入場すると大きな拍手が沸きました。
ジェフ・コーエンの巧みなピアノ伴奏がよりスミ・ジョーの細かな表現を引き立て、引き込まれているうちにあっという間に1幕が終わり、幕間にドリンクブースでシャンパーニュを飲みたく並びました。
興奮をまだ明るい日射しが入る中でシャンパーニュがより気持ちを高めていたようで、隣にいた方に写真を1枚お願いすると、まるでシャンパン・グラスをタクトに見立て指揮者になりきったように写る自分がいました(笑)
休憩が明けるとスミ・ジョーはお色直しして赤いドレスで登場し、MCでフランス語で笑いを取ったりと歌だけでなく劇場を1つに纏めたエンターテイナーとして盛り上がっていきます。
全てのプログラムが終わると壮大な拍手が沸きました!
手拍子と共に盛大なるアンコールの催促があると…
スタンディングオベーションで迎えるオーディエンスにアンコールは4回と、いつまでもスミ・ジョーを称える拍手と「ブラーヴォ!」の声がこだまし、同じように自分も声を張り上げていました。
パリジャン、パリジェンヌの心を動かした姿にアジア人としての誇らしさを感じ、自分も最後まで拍手を送り続けました。
本当に素晴らしかった。
気付けば劇場を出る最後の観客となっていて、
誰もいないシャトレ劇場を後にしました。
22時を回り大分空も暗くなり始めたシャトレ劇場正面から歩き始めました。
明日は朝6時起きで大荷物のパッキングをし8時にチェックアウトしシャルルドゴール空港に電車で向かいますが、この心地よい余韻を楽しみたく軽く食事に向かいました。
劇場からリヴォリ通りをルーブル宮方面に1駅歩きルーブル・リヴォリへ。
この付近に遅くまで開いていて行ってみたいワインバーがある為でした。
ビオワインに力を入れ、パリ最先端の流れを感じられるとワインインポーターさんからも旅前にちょうど聞いてもいました。
中々お店が見つからず歩き回った23時過ぎにようやく「Le GaRde-Robe」を見つけることが出来ました。
店頭では若い女性がテーブルを囲みワイングラスを傾けていていい雰囲気です。
中へ入るとカウンターではスタンディングで男性が飲んでいます。
1日歩き疲れていたので奥に4つあるテーブルに座りました。
とりあえず白ワインをグラスで頼みながらワインの壁となる店内を見ていると
アジア人女性が働いていました。
その女性がフードの注文を取りに来てくれ、英語で「何か食べますか?」と聞いてくれやりとりしてましたが、その後近くにいたフランス人女性スタッフさんから「日本人?」と聞かれ、頷くとアジア人女性がすぐに来て「私も日本人です!それは嬉しい〜」と歓迎してくれました。
お任せで生ハムやチーズを盛合せにして頂きワインも赤を含め4杯を各種出して頂き、短い時間でしたがとても楽しい時間でした。
日本人スタッフの女性はバーを切り盛りしながら24時近くになりカウンターで酔った男性にも、また花売りの男性が店内に入って来ても、あしらいが上手く見ていて頼もしい光景でもありました。
お会計をしてルーブル・リヴォリ駅から地下鉄に乗りホテルへ帰りながら、何だかもう少し歩きたくなりました。
ピガール駅で降りアンヴェール駅まで1駅歩くことにしました。
スミ・ジョーからパリで働く日本人と、アジア人女性の活躍の余韻が、深夜のピガール駅付近の怪しさの中にこだまするよう響いていました。
また来年も欧州に来れるよう帰国して1年頑張っていこう。
新たな風をDORASの【扉】に入れるべく、ヨーロッパ文化伝道のコンセプトを胸に生涯旅は続けたい。
1歩1歩自分の足を前に向けて歩んで掴んでいきたい。
シャンパングラスをタクトに見立てたよう、吸収した文化や伝統をDORASのカウンターピットで指揮していきたい。
そんな想いが増しながら深夜のパリ下町を歩いていたのでした…
《完》