2015年フランス・ベルギー旅 後記 vol.12 |
朝6時に起きて荷物や購入したグラスをパリへ移動する為に入念なパッキングを先ず終えて、今日開催のグラン・サブロン広場での骨董市へと足を進めた。
ブリュッセル中央駅の前を通ると全く人がいない。大きな軍用車が停められていて異様な雰囲気が漂っていた。
早歩きでグラン・サブロン広場に着くが…
何と骨董市は開催されていなかった!
昨日アンティークショップのマダムに教えて貰った広場奥のテントにも勿論人はいない。
近くにいた軍隊に聞いてみると「今日は骨董市は中止だ」と言う。
理由を聞くと「今日のブリュッセルは1番の厳戒態勢だ。あまりうろつかない方がいい。」と返ってきた。
この骨董市を楽しみにしていたのにと肩を落としてしまった。
悔しかった。テロに負けたくない…。
ここまで来たのだし広場の裏路地を見てみよう。もしかしたら裏路地にアンティークショップがあるかもしれない。
そう願いながら広場の裏路地へと向かうが営業している店が無かった。
しばらく歩き続けていた。店がやってなく諦めてホテルへ帰ろうとした時、目の前に美しきオーラを放つグラスの数々に佇むよう輝くグラスに見とれてしまった。
こんなに沢山のヴァル・サン・ランベールを見たのは初めてだった。
写真を撮ることも忘れていた。
開いていないのは分かっていたが扉を引いてみたが鍵が掛かっていて、扉を叩き中を覗いたが誰も居ないようだった。
ウインドー越しにグラスの底に付いたプライスを下から覗き込むように見てみると、想像を超える低いプライスにびっくりとした…!
素晴らしい数々のグラスを眺めながら扉をもう1度見ると営業時間が貼ってあった。
『OUVERT
Mardi au Samedi,11h à 18h.
Dimanche,11h à 14h.』
今日は11時から14時まで営業している…!
まだ9時で2時間あるのでもう1度戻ってこようと引き返し、市内中心部に足を進めた。
日曜日で観光客で溢れるはずの優雅なギャルリー・サン・チュベールに全く人がいなくびっくりした。
ライフルを持った軍隊しか歩いていない驚くような光景にギャルリーを進んでみた。
閉まっている店が多く、営業していたチョコレート屋に入ってレジにいた若い男性に状況を聞くと、「今日ブリュッセルではなるべく出歩かないように、またお店もなるべく開けないようにとニュースが流れているので観光客が全くいない。こんなブリュッセルは今まで見たことがない。気をつけてください。」と観光客がいなく暇そうにしながらも親切に教えてくれ、買うはずでなかったチョコレートを買って店を出た。
市内はほとんど人がいなく軍隊ばかりが目に入る。
コニャックからパリへ入ってから行く土地土地で軍隊を撮っている私は戦場のカメラマンかと思えてきた。
そんな私も迷彩のジャンパーを着ていて同化しているようでもあった。
ホテルへ帰り先ほど買ったチョコレートを食べて血糖値を上げて脳にエネルギーを与え、荷物をフロントに持って行きチェックアウトしてから全ての荷物を預かって貰った。
時計を見ると11時で再度グラン・サブロン広場の裏路地のグラス屋に足早に向かった。
もしかしたらテロの警戒で店は開いてないかもしれないと一瞬頭を過ぎったが行ってみないと分からない。
扉を引くと開いた!
勢いよく「ボンジュール」と中に入ると優雅そうなマダムから「ボンジュール」と挨拶があり早速グラスを見せて貰う。
宝箱の中に入ったような気持ちが湧いてきた。
しかも全てが良心的な価格であった。
骨董市で有るか無いか分からない出逢いを求め歩き廻るのと違い、どれも輝くグラスに囲まれている。
そんな釣り堀に入って釣れるだけ釣っていいと言われているような気持ちが湧いていた。
1925年頃のアール・デコ期のヴァル・サン・ランベールに心踊り、クープ型のシャンパングラスを見てはこのカクテルを注ぎたいというインスピレーションが湧いてくる。
今旅で探していたヴァル・サン・ランベールのタンブラーにも再度出逢った。
1800年代のヴェネチアングラスに一目惚れし、マダムに聞くと12脚セットでしか売ってくれないと言うが食い下がった。
マダムもとても頑固であったがバラで購入までこぎつけた。
全部購入したいがもう持ちきれない為に厳選した。
会計でも大きな気持ちを頂き、「梱包はホテルへ帰って私がやりますので簡単で大丈夫です。」とマダムに伝えるが、マダムから「私に任せなさい。これも私の仕事よ。」と頑固に聞いてくれなかった。
マダムがエアーパッキンで梱包する姿を見守るしかなかったが、グラスを愛している証拠だろう。
マダムに「グラン・プラスの裏にあったグラス屋が半年前に閉店したのを聞いて残念だったけど、今日こちらを見つけられてラッキーです。」と言うとマダムからは「あそこのグラス屋は今の物だけど、私のコレクションは全てアンティークよ。」と言い切った。
偶然な出逢いを喜び、またの再会を誓った。
両手にグラスを持って店を出た。グラン・サブロン広場近くのビアカフェに入り朝食となる昼食を摂ることにした。
ベルギー最後の食事はムール貝のワイン蒸しを食べたかった。
達成感に包まれランビックビールを喉越しで飲み干した。
バケツサイズのムール貝に舌鼓打ち、最後のベルギーを噛み締めていた。
フリットも美味かった。あっという間に食べ終わってしまった。
ホテルへ戻ってフロントで荷物を返して貰い、ロビーの片隅を使いマダムが梱包したグラスを1度全部外して自らが梱包し直した。
“鬼の梱包”をしないと気が済まないからだ。
マダムも頑固だったが私も頑固さでは負けないと思いながら梱包に没頭していた。
梱包したグラスを大きなリュックの下から重いグラスを、徐々に軽いグラスを詰め込んでいくと隙間のない位ぴったりと入った。
大荷物が更に膨れ上がり、ホテルを出てブリュッセル南駅に向かいたいが今日も地下鉄は動いていない。仕方なく中央駅まで向かいタクシー乗り場からタクシーに乗った。
重い荷物を自らが運んでこそ1杯のグラスにより想いを注ぎ込みたいとのD.I.Yの精神が私のスタイルであるが今日はどうにもならない。
タクシーに乗り込み南駅へと向かった。
タクシーの運転手に聞くと「今日は1番の超厳戒態勢だ。南駅は気をつけた方がいい。でも明日からのブリュッセルは落ち着いてくると思うんだが…」と言う。
南駅にタクシーが着くと大勢の軍隊が迎えてくれた。
両手に2つの大きなスーツケースを転がし、背中にパンパンに詰まったリュックを背負いチケット売り場に向かった。
パリ北駅行きのチケットを購入したが今日は日曜日で高かった。チケットを手にホームへと向かう前に警察の荷物検査があるようで並んだ。
嫌な予感がしていた。
スーツケースもリュックも全て時間をかけてパッキングしてきた中でチェックされるのだろう。
私の番になって警官にスーツケースを開けるように指示が出た。
2つのスーツケースを数人の警官がガサガサと中をチェックした。
チェックを終えてると案の定スーツケースは閉まらない。
すると2人がかりでスーツケースを押してロックをした。
「背中のリュックも見せなさい。」
「わかりました。エアーパッキンの中は全てグラスです。チェックの際気をつけてください。」
大丈夫だろうか?
見ていると警官はエアーパッキンを剥ぎ取りながらグラスを出していた。
「全てアンティークグラスだから気をつけてくれ!」
つい大声で叫んでしまったが警官は手を止めなかった。
折角先ほど数十分前に“鬼の梱包”をしたグラスが剥ぎ取られていった。
「グラスはもう1度自分が梱包するから触るな!」とチェックをしていた警官を押しのけて再度梱包した。
この厳戒態勢で仕方ないが徹底したチェックに悔しかった。
急がないと列車に間に合わないと時計を見るととっくに発車時間は過ぎていた。
再度の梱包を終えて警官に「列車が行ってしまった。どうすればいいんだ?」と聞くと「大丈夫だ。ホームへと進みなさい。」と言うようにホームへ向かうと列車はまだ動いていなかった。
これだけの乗客全ての荷物をチェックした列車は大幅に遅れてパリへと発車したのであった。
グラスの梱包と荷物を運ぶので汗まみれになっていた。
ホッとした感覚は無かった。
列車は約1時間半でパリへ無事に着き、予約しているホテルへと向かった。
ホテルはオペラ座ガルニエ宮からオペラ通りをセーヌ川方面へ、ピラミッド駅を超えた辺りの超一等地に破格に安いホテルを予約してあった。
チェックインして部屋に入るとベッドにそのままうつ伏せに飛び込んだ。
パリへ入ったが今回の旅はこれで終わりとなるだろう…
そんなことを思うといつしか眠りに就いていた。
目がふと冷めると19時だった。
着替えて向かったのはオペラ駅付近にある「ハリーズ・バー・ニューヨーク」であった。
ここへ来るとパリへ帰ってきたんだと安心するのでいつも寄ってしまう。
寝起きでトマトジュースを欲したのかハリーズ・バー発祥カクテルの「ブラッディー・メアリー」を飲みたくなった。
アルコールが強いのでビールをチェーサーに貰い、口の中で「レッド・アイ」風にして染み込ませた。
ここでしか飲めない破格のマッカラン25年をオーダーした。
美酒が身体に入ると元気が出てきて毎年会うバーマンと写真を撮る。
ハリーズ・バーを出て夕食を食べようと思ったが近場で済ませたかった。疲れていたのだろう。
界隈は観光店が多いのでオペラ・ガルニエ宮の裏側に廻り店を適当に探した。
目に入ったガレットにそそられて扉を押した。
ガレットは硬かった…。
今旅では飛び込みで何処に入っても外れは無かったがここは大きなパリである。東京と同じであった。
小さな町で店を探すのはある程度嗅覚が働くが、これだけ店が多いパリではその分当たり外れがあるのは当然のことだろう。
フルボトルで貰っていたシードルの辛口を煽るようにガレットを流し込み席を立った。
今日はホテルへ帰ろう。明日の予定も考えらない。もう旅はこれで本当に終わったのだろうか…