2016年フランス・イタリア旅後記録 vol.4 |
強い雨風が窓を叩きつけ、破れるのではと思う程の激しい夜が明けた。
朝8時に朝食をとりにゲストハウスを出ようとすると、フロントで今日のジェノヴァは暴風域に入り旧市街はクローズしていると教えて貰った。
ゲストハウスに面したXXセッテンブレ通りはアーケードに覆われているので雨に当たらず近くのカフェに入った。
フォカッチャを温めて貰い、サラダとフルーツを欲したので自らの身体に問いかけてみた。
昨日の疲れからビタミンを欲していたようで身体に水々しさが染み渡った朝食となった。
この日はジェノヴァからフランス入りするのであるが、当初レンタカーでジェノヴァからヴァラッツェへ向かい1泊し、そのまま地中海沿いを進みフランスへ入り、ニース空港でレンタカーを乗り捨てする予定であったが、国を変えてのレンタカーの乗り捨て料金が735ユーロ追加と破格だったため、ジェノヴァへ戻ってレンタカーを返し、ジェノヴァから列車でニースへ向かう20ユーロの行き方を即決で選択していた。
しかもこの悪天候を考えると、暴風雨の中ヴァラッツェからジェノヴァへ朝に出て戻ってこなければならなかったので、ヴァラッツェにたどり着けず良かったかもしれないと自らに言い聞かすよう、不幸中の幸いを感じていた。
ゲストハウスをチェックアウトし、アーケードを進むと着くフェッラーリ広場の脇にメトロの駅がある。
ジェノヴァには全8駅だけの区間であるが地下鉄が走り、フェッラーリ駅からフランスへの国際線も通るプリンチペ駅への5駅間を利用できるので便利であった。
仕入れた酒が入った2つのスーツケースの上り下りは毎回大変だが、予定通りプリンチペ駅のチケット売場でニース行きのチケットを購入し、直行列車だと出発が午後になるので乗り換えがあるがその分少しでも早く着く午前発を選んだ。
構内のカフェで列車に持ち込むパニーニを買い、予想通り遅れて到着した11時43分発ヴェンティミーリア行きの列車に乗り込んだ。
暴風雨の中疾走する列車はイタリアの田舎町に停車しながら進むが、駅で停車するたびに大雨と強風でホームが川のように流れている。
終点ヴェンティミーリア手前のボルディゲーラでトンネルを抜けると雨風が突然止んでいてびっくりした。
雲の合間から太陽が見えると一気に回復した地中海がとても美しく、海沿いの席へと移動し車窓からの景色を楽しむことができた。
ついつい波をチェックしてしまっていたが、悔しさと自らへの嫌悪感に包まれながらイタリアとフランスの国境に近い終点のヴェンティミーリア駅には14時20分に到着した。
ニース行きの列車が来るホームへと上り下りするとホームにはライフルを持った軍隊が待機していた。
パリのテロ最中と重なった昨年の旅では常にライフルを持った軍隊と対面していたのであるが、数ヶ月前にニース空港でテロがあったのである程度予想はしていた。
何事もなく10分後に無事出発した列車は国境を越えていつの間にかフランスに入り、15時半にニース・ヴィル駅に到着した。
駅から予約しているニース空港前のホテルへと向かうのに駅前のティエール通りから出ているバスを利用することにした。
20分後に空港行きのバスが来て乗り込んだ。
約20分で空港に着き、ホテルに先ずはチェックインすることが出来た。
明日のフライトでボルドーまで飛び、ボルドー・メリニャック空港でレンタカーを借りてコニャックへと向かうのであるが、フライトが朝6時50分と早く、また2つのスーツケースの荷物の重さから余裕を持って空港に5時台に着いてないと不安があるので空港近くのホテルを予約していたのであった。
大荷物の移動から喉が渇いていた。
昨日までのゲストハウスから広くて清潔感あるホテルの部屋を出て、ホテル内にあるバーでビールを煽るように一息ついた。
17時半を回り外は一気に暗くなってきたが、せっかくニースに来たので明日の朝が早くても夜のニース市内を楽しみたいとホテルを出てバス停へと向かった。
真っ暗となった地中海沿いを全長3.5キロの大通りとなるプロムナード・デザングレをバスが進む中、世界の王侯貴族に愛された地に入り込もうとバスの1番前で前方を見渡していると、 豪華な超一流ホテルが軒を並べている。
海岸の遊歩道プロムナード・デザングレは“イギリス人の散歩道”と云われるが、19世紀初頭に保養地としてのニースの魅力に最初に注目したのがイギリス人であった。
19世紀末から第一次世界大戦にかけての“ベル・エポック”と呼ばれる時代には、北ヨーロッパの王侯貴族がこぞって避寒に訪れ、建てた豪華な別荘で華やかな社交を繰り広げていた雰囲気が超高級ホテルの名残からも感じていると、プロムナード・デザングレからバスが進路を変えたのでふと停車ボタンを押してバスから降りることにした。
駅前に着くより少し距離はあるがバスを降りてニースの夜を歩きたくなった。
ニース市民が住む重厚な建築物が並ぶ静かなビュファ通りから
店舗の多いフランス通りを進んだ。
徐々に観光客も増えて中心地へ近づいたのを感じる。
雨が止みライトが地面を反射し、赤の建築物に囲まれたマセナ広場通りが美しい。
マセナ広場の中心で赤の統一感にしばらく佇んでしまった。
マセナ広場から旧市街のメインストリートとなるサン-フランソワ・ドゥ・ポール通りに入るとテラス席があるレストランが並び観光客でテラスまで溢れて活気がある。
観光店の多いメインストリートでは多くの呼び込みを避け、裏路地を見つけては入り込んでいると1軒の惹きつけられたレストランがありふらっと入ってみた。
ここ近年毎年渡るフランスで「ボンソワール」という言葉がホッと感じた温かみある瞬間だった。
案内されたテーブルにギャルソンがメニューを持ってくると、フランス語のメニューがイタリアからフランス入りしたことを何よりも感じさせてくれ、スプマンテから自然とシャンパーニュへと私のオーダーも変わる。
今日のおすすめという黒板メニューからギャルソンと相談し、せっかく海の街ニースに来たのだしメイン料理を魚に決め馬頭鯛(マトウダイ)となった。
1皿目はこの店のスペシャリテと聞いた「ピサラディエール・メゾン」。
ピサラディエールとはピザに似たフランス南部の料理であり、ニース、マルセイユなどで見かけるトマトを使わない白いピザとして考案されたプロヴァンス風ピザである。
アンチョビとブラックオリーブの塩気にしっかりと炒められた玉ねぎの甘みのバランスがよく食欲をそそる。
ワインはこの日もボトルで貰おうと思っていたが明日の早朝発を考えグラスにし、プロヴァンス産辛口のロゼを選んだ。
メインの馬頭鯛のロティもじっくりと火入れさせていて、野菜のシンプルな旨味が香り“乙女”と表現されるソース・ヴィエルジュがより馬頭鯛の旨味を引き立て、ここではプロヴァンス産の白ワインと合わせ楽しんだ。
ギャルソンにおすすめのデセールを聞くとチョコレートムースと生クリームがカリカリに焼いたバゲットの中に挟まれたエクレアがいいと言うのでお願いし、コニャックは何があるか聞くと今旅で初めて訪れる予定の「フランソワ・ヴォワイエ」があるとでテンションがさらに上がってしまった。
フランソワ・ヴォワイエは旅立つ数日前に口にした素晴らしい味わいから訪問してみたいと思い、急遽アポイントを取っていた造り手であった。
明日からのコニャック入りを前にふらっと入った素晴らしいレストランが最高のお膳立てとなり、短いニースでの滞在を楽しませてくれた。
海の香りが漂うニースの夜風を浴びながらホテルへ帰った。
コニャックへ向かう明日が今から待ち遠しかった…